コンサートシリーズ

《ツァイトプンクト》

第2回[ラウムコンプ]

 

小出 稚子(作曲家)

 

2016年の第1回公演パネルディスカッションにて、小出さんがご自身の作曲活動においては特定の〈作風〉を意識したことがなく、関心をもった対象物を描くにあたって様々なテクニックを使い分けている、とのお話が印象的でした。芸術家としての〈引き出し〉が特に多いことと思います。これまで多くの作品に取り組まれたなか、ある一定の時間が経つと再び関心をそそられ繰り返し取り上げられているテーマはありますか?

 

― 曲のテーマというのよりは、もっと小さな単位(モチーフ)についてでしたらあります。

以前は、1つの物体の動きや速度、それに反応して何か別の物体が動いたり変化したりするのような「ピタゴラ装置的なもの」を繰り返しいろいろな形で使ってきましたが、最近ははっきり目に見える何かよりも温度、湿度、霧、雲、匂いのようなものを操る感じの音楽を作ることに興味があり、そういう「つかみどころがないけれど、なんとなくまとまっている」タイプの作品をよく作っています。ただ、今回の作品は具体的に薬師川さんの作品という目で見えて、手で触れることができるお題があったので、彼女の作品の破片の手触りや色合いや、製作過程で考えていることなどを手がかりに楽器を選び、音に変換してみました。

 

インドネシアに長期滞在しジャワ・ガムランを研究されたご経験をお持ちです。世の中には多種多様な「打楽器」があり混同はいけませんが、小出さんと「打楽器」との出会いはいつ/どのようなものでしたでしょうか?他の作曲家の作品や民謡・民族音楽より直接的な着想を得られたもの以外に、ご自身で「ひらめいた」打楽器の使い方(特殊奏法等?)はありますでしょうか?

 

― 打楽器は(もちろん上をみればキリがないですが)100円ショップでも手に入りますし、旅先のお土産や買い物のついでに集めたものなどが自宅に腐るほどあります。出会い自体はもう忘れましたが、いつの間にか私のクローゼットをすごい割合で占領しています。

その中でその時作っている曲のテーマに合った打楽器をテーブルの上に並べ、実際音を出して実験しながら音楽のパーツを作っています。自分でひらめいた特殊奏法というよりは、料理に使うスパイスのチョイスや調合を編み出している感じですかね。インドカレーを作っている時と似ています。この作品では、これと、これと、この打楽器(スパイス)を、この配分で使おう、みたいな感じで。

 

今回の「ツァイトプンクト」では小出さんの新作楽曲の演奏によって海岸通ギャラリー・CASOの大空間そのものが〈作品〉になります。これまでに特定の空間を意識して(特定の空間での演奏を目的に委嘱を受けられた場合やご自身で特定の空間を想像して作曲された場合を含む)作曲をされた楽曲はありますでしょうか?

 

― 一昨年NHKからの委嘱作品で、4人の打楽器奏者のための作品を書きました。これはコンサート形式ではなく、NHKの大きなスタジオで収録して、それをテレビで放映初演するものだったので、普段コンサートホールでできないような大掛かりな円形の舞台セットを作っていただき、天井から1本ずつにバラしたチューブラベルを吊りました。

ただこの作品は(非常に大変なことではありますが)大きなセットをどこかでもう一度作りさえすれば、一応再演可能なものなので、今回のように間取りや部屋の大きさなども考慮して、完全にサイトスペシフィックな作品を書くのは初めてです。楽しみであり、本当にうまく作品が機能するのかどうか、初めての体験に緊張もしています。